【エスパー魔美】衝撃の問題作『リアリズム殺人事件』についてVol.1の続き
撮影現場に忍び込む
ここは原作とアニメの違いは細かいところのみで、特に大筋には影響がない。
細かい違いと言えば、アニメでは高畑さんの部屋からそのまま撮影現場に向かうが、原作では高畑さんとハイキングに行くということにして、お弁当を持って魔美の家から出かける。
このときママが「高畑さんとハイキング?危ないところへ行っちゃだめよ。暗くなる前に帰るのよ。」と心配をしてお小言を言うのだが、それに対して魔美が
「わーった、わーった。」
と返事をする。
こういう言葉遣いのセンスが藤子・F・不二雄先生だなぁ、と。
そして家を出る時にコンポコがついて行きたそうにするが、「遠いから連れていけないの。」というコマがある。
後の方で出かけるときにまた「遊びにいくんじゃないんだから。ここんとこ出番がなくてかわいそうだけど…。」と言って、コンポコを置いていく。
これは「最近コンポコの出番がないですね、さびしいです。」という読者の声へのサービスかもしれないし、決められたページ数の帳尻合わせのためかもしれないが、藤子先生はこういうメタ的な遊びを漫画にちょいちょい挟むのは好きだったようだ。
ちなみにこのお弁当は後で高畑さんが美味しそうに食べるので、ママが作ったものだろう。
魔美は手製のサンドイッチで暗殺のプロを気絶させるほどの料理下手なのだ。
勉強になる藤子作品
さらに余談だが、魔美のテレポート能力が進歩して、原作では「一回のテレポートで5キロ近くジャンプできるようになったのよ。」というシーンがある。
アニメでもいきなり雲の上にテレポートして「ジェット機並みに○×△○×△だってできるのよ」と言うのだが、なんて言ったのか聞き取れないところがあった。
原作を読むとそこは「ジェット機並に亜成層圏航行だってできるんだから」となっていた。
もう一度アニメを見ると「亜成層圏飛行」と言っていることがわかった。
「亜成層圏航行」と「亜成層圏飛行」をググって見ると「亜成層圏飛行」という言葉しか出てこなかったが、意味は以下の通り。
「亜成層圏飛行」
成層圏に近い高空における飛行。飛行機は一般に高空を飛ぶほうが,高い山など地形による障害に対して安全であり,大気の乱れも少なく,一定の速度を出すのに必要な力が小さくてすむ。ピストン・エンジンの場合には,高空に上るに従って出力が低下するが,ターボジェット・エンジンやターボファン・エンジンではさほどでなく,一定の燃料で飛べる距離も増大する。そこで,ピストン・エンジンで駆動するプロペラ機の時代には,記録の樹立ないし研究的意味でしか行なわれなかった亜成層圏飛行が,ジェット時代には普通に行なわれるようになった。もっとも,あまり高く上ると揚力不足になり,キャビンの与圧も必要になるので,現在の亜音速ジェット機の飛行高度は,1万~1万 2000mの成層圏と対流圏の境界面付近であるブリタニカ国際大百科事典
エスパー魔美は少年誌である『マンガくん(後の少年ビッグコミック)』に掲載されていたし、魔美自体も中学2年生の設定で画家である父のヌードモデルのアルバイトをするなど、ドラえもんなどと比べるとやや対象年齢は上になる。
しかしアニメ化された後、児童向け漫画雑誌の『月刊コロコロコミック』に再掲載されたので、たくさんの小さな子供が夢中になって読んだのではないか。
現に私自身もエスパー魔美を読んでいたのは小学生の低学年のころだ。
「亜成層圏飛行」と言われても、意味がわからずスルーする子もいれば、気になって親に質問をしたり、自分で調べる子もいるだろう。
そして地球の大気圏には空気が上下に活発に動く対流圏と層になっている成層圏、さらにその上もあることなどを知るようになるかもしれない。
この『リアリズム殺人事件』に衝撃を受けて、モチーフである芥川龍之介の『地獄変』を読む子も出てくるはずだ。
勉強のための勉強はつまらないが、心を動かされたことから学びに繋がるのは、子供にとっても至福の時間だと思う。
自殺を試みた女性のその後の描き方
原作は淡々と「死ぬ気になればできないことない」と言われ女優になったこと、先生は厳しいが素晴らしい人、堀川御殿のセットだけで30億円もかかってること、写実に近づくために平安時代の人と同じような服装でずっと生活している事などを語らせるだけだ。
アニメは後に回収される伏線として、やや心理描写などが含まれる。
その部分を書き起こしてみよう。
女性「女優になっちゃったのよ。無理だって言ったんだけど、竜王寺先生が死ぬ気でがんばればできないことはないって。」
魔美「そうよ。死ぬ気でやればなんだってできるわ。」
女性「そうかしら。でも私みたいな地味な女には似合わないんじゃないかって、撮影が進んだ今でも自信が持てなくて。」
高畑「そんなことないです。とっても似合ってます。がんばってください。」
女性「ありがとう。がんばるわ。」
(中略)
魔美「(でもこの人なにか暗い影があるわ。まだ以前のことにこだわりがあるのかしら。)」
そして竜王寺監督に見つかった魔美と高畑さんは、槍をもった侍に追い出されるのだが、
高畑「あの槍も本物だったのかなぁ。」
というセリフがある。
原作もアニメも帰る前に魔美は
「(それにしても…あのひみつ主義はちょっと異常ね。)」と感じる。
ポイント
原作のほうでは自殺をしようとしていた女性はすっかり元気になって、女優業を一生懸命がんばっているように描かれている。つまり女性は監督を信頼しているのだ。
アニメのほうではなぜ自分が女優に抜擢されたのか、納得しきれていない心理が描かれる。
そして槍のくだりは監督がリアリズムを追究する人だということを強調するために挿入されたのだろう。
この時点で魔美は映画が『地獄変』であることを知らないが、女性はもちろん知っている。
ここまでは原作とアニメは微妙な伏線以外はほぼ同じだ。
次回からはストーリーが大きく異る部分に入っていく。
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