【エスパー魔美】衝撃の問題作『リアリズム殺人事件』についてVol.3の続き
この『リアリズム殺人事件』は原作よりアニメ版の方がよく出来ているように感じているが、原作も素晴らしい作品であることは間違いない。
子供心に衝撃を受けて大人になってからも覚えていたし、モチーフは重厚だがストーリーは子供にわかりやすいように出来ている。
そこで藤子・F・不二雄先生はどのように考えてこの作品を描き上げたのか、推測してみたい。
リアリズム芸術とは何かというテーマ
まずは顕在的にわかる部分から取り上げていこう。
「現実に火に焼かれる女性を撮影することが究極のリアリズム芸術だ」と考えた監督を罰するストーリーであることは子供でもわかるように出来ている。
原作の最後に魔美とパパが芸術談義をするところを引用してみよう。
パパ「なにをバカなことを!!モデルは素材にすぎん。それからイマジネーションをふくらませていくのが、画家のしごとじゃないか!!」
魔美「(そうなのね。それがほんとの芸術家なのよね!竜王寺さんにパパのことばを聞かせてあげたかったわ。)」
このパパのセリフは藤子・F・不二雄先生自身の言葉のように思える。
リアリズム芸術というのは、現実をそのまま写し取ればいいというものではない。
例えば『地獄変』をリアルに撮ろうとして、女性を焼こうと思ったとしよう。
それなら女性の父親役の役者を本当の父親が演じていないとリアリズムじゃないじゃないか、と批判されてしまう。
なぜ焼き殺すシーンだけを現実にして、その他は適当でいいんだ?と。
つまりそんなことを言い出したらキリがないのだ。
いや、本当の現実の生活をそのまま撮影して作品にすることは出来る、というかもしれない。
例えば砂田麻美監督の『エンディングノート』はそれを成功させているじゃないか、と。
確かにあれは奇跡的な芸術作品だ。
しかし、ただ単に現実の生活をそのまま撮影しただけで、リアリズム芸術になるわけではない。
通常は芸術作品ともドキュメンタリーとも、記録とも呼べないような凡庸な映像が残るだけだろう。
リアリズム芸術というのは現実をそのまま写すよりも、虚構であっても現実より現実を感じさせるものだ。
「あー、それあるある!」と共感できるもののことをリアリズム芸術だと思っていると大きく間違う。
そもそもリアリズム芸術と謳っていない作品であっても、「リアリティが足りなくて作品に入っていけなかった。」というような批判がよくなされる。
これには2つの場合があって、確かにあまりにも表現が稚拙すぎて、粗しか印象に残らない場合もあるが、もう一つは芸術作品というのは鑑賞する側のリテラシーの問題もあるのだ。
例えば、敬虔なキリスト教徒を主題にした作品を見た時、「現代にもなってそれマジで言ってんの?」というようなことがある。
それが表現が稚拙なのか、こちらがその文化に疎いからなのかの判断はできない。
藤子・F・不二雄先生の潜在的批判
藤子・F・不二雄先生はもうお亡くなりになっているので、本当のところは確認することはできないのだが、この作品だけではなく、他の作品や数少ない発言から推測すると、芸術家が芸術家ぶってお高くとまっていることを潜在的に批判しているのではないか、と思う。
芥川龍之介の『地獄変』という作品は確かに名作だろう。
キャラクター描写やストーリーの持っていきかたには引き込まれるものがあり、読後感としては重苦しいものが残る。
しかし誇張が過ぎるというか、「芸術というのはこんなに苦しい思いをして生み出しているものなんだ」と言いたくて仕方がない自意識というのも読み取れてしまう。
つまり芥川龍之介自身が、命を削って小説を書いているんだ、だから自分の作品は素晴らしいんだ、と言いたそうに思えるところがあるのだ。
それに対して、藤子・F・不二雄先生は「作品を生み出すのに苦労が伴うのは当たり前のことで、ことさらそんなことを威張るのはおかしい。自尊心と自己嫌悪に板挟みになりながらも、最終的には読者に楽しんでもらえるもの、あるいは鑑賞者に感動してもらえるものを作るべきだ。」という思想を持っていたように思う。
命がけで作り上げた作品が、世間からは駄作だと言われることを受け入れる強さが、藤子・F・不二雄先生にはあった。
言い訳のように「こんなに苦しい思いをしたんだから評価してくれ」などとは言わない。
もしつまらないと言われたら、「よーし、次こそはもっといい作品を書くぞ!」と奮起してこそ本物だ、と。
だからこそあれだけたくさんの名作を世に送り出し、今では全世界的に楽しまれているのだと思う。
次回はアニメ版の『リアリズム殺人事件!?』について触れていく。
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