山本KID徳郁を応援して下さった皆様へ
山本KID徳郁(享年41歳6ヶ月)が、本日9月18日に逝去致しました。生前に応援、ご支援をして頂きました関係各位、ファンの皆様に本人に変わり御礼申しげます。
尚、山本家、家族、友人への取材等はご遠慮頂き、ご配慮頂けますようお願い申し上げます。
KRAZYBEE— KRAZY BEE OFFICIAL (@KB_official) 2018年9月18日
死人に口無し。
【追悼】という綺麗な言葉を使って死人のことについてあれこれ書いてサイトのPVを稼ぐような行為は本来好きではないんだけど、山本”KID”徳郁氏の訃報を聞いてから4日経過してもまだ頭の中から離れない。
山本”KID”徳郁は自分の中で特別な選手という意識はなかったが、これだけショックで頭から離れないのは、もしかしたら特別な選手だったのかもしれない。
格闘技界で知らない者はいないし、一般的な知名度も高いとは思うが、具体的な戦績や「どうすごいの?」という部分を、そして山本”KID”徳郁の死について自分が思ったことを書きたいと思う。
格闘家 山本”KID”徳郁
まず私が山本”KID”徳郁を最初に意識したのは、村浜武洋戦。
村浜武洋は当時のK-1 WORLD MAXトーナメントの優勝候補。KIDはK-1初挑戦ということもあり、あまり期待されていた印象はなかったが、まさかの優勝候補、村浜にKO勝ち。
(準決勝は負傷棄権)
魔裟斗戦
そしてその年の大晦日にはK-1ルール2戦目にして魔裟斗戦。
結果的には判定負けだったが、K-1ルール2戦目で魔裟斗に善戦。しかも個人的な判定はKIDの勝ちだとも思っている。
それはダウンを奪った直後。魔裟斗のローブローを金的に貰い、続行不可能レベルで試合を続行させたという経緯がある。
くさすつもりはないが、やはり魔裟斗の視線を見ても、ローブローが意図的なものではなかったのかなと思ってしまった。
しかも映像を見ればわかるけど、とても続行できるレベルのローブローではない。
おそらくローブロー以降は力の半分も出せていなかったと思うし、競技的な目線で見れば、あれは反則負けにするべきだと思う。
リミッターを外せる格闘家
多かれ少なかれ、格闘家はリミッターを外せるし、リミッターを外せない格闘家は強くならないと思っているんだけど、KIDのリミッターの外れ方は格闘家の中でもトップクラスだと思う。
K-1に初参戦する2年前の修斗にて。
ステファン・パーリング戦。
タックルに右膝を合わせられ、額が割れるようにカットしTKO負け。
アドレナリン全開。
その後の負けた試合を見ているとこういった、負けているのに気持ちが折れていない場面によく出くわす。
マイク・ザンビディス戦。
完全にザンビディスの右フックが決まり失神しているんだけど、目は死んでいない。
チョン・ジェヒ戦。
左フックが決まり完全に失神しているんだけど、立とうとしている。失神した人ならわかると思うけど、あれだけの衝撃を受けて失神した後に立ち上がるなんて不可能だ。でも彼は本能で戦おうとしている。目が死なないのだ。
2009年大晦日の金原戦は会場で見ていたが、たしかに打たれ弱くなっていってるのもあるが、フラッシュダウン後の反応が嘘のように早い。これは本能で戦っているからだと思う。
普通の人間はリミッターが働いて、失神後に立とうなんていう気にすらならない。
リミッターを外す才能があると身体や脳へのダメージが蓄積されてしまう可能性が高いけど、格闘家としては魅力的だ。
ストーリー
KIDは2007年の年末に勝って以来、かなり怪我に悩まされていたと思う。
これは復帰戦のジョー・ウォーレン戦。
ヒジとヒザを故障し、自分の身体が自分じゃないような感覚と、見えてこない復帰に焦っていたと思う。
それでも諦めないで復帰することができた。
当時、映像を見ながら、KIDのこういうネガティブな発言は珍しいなと思った。
そして2010年のキコ・ロペス戦。
結果的に、これがKIDの最後の勝利となった。
この試合も会場で見ていたが、KIDの復活は素直に嬉しかった。諦めない天才だと思う。
キャリア終盤
KIDのキャリア終盤は、ファンとして見ていても、苛立つような内容だった。
UFCへ行ったものの、3連敗してほぼリリース状態。
2015年の大晦日には魔裟斗とエキシビジョンという形でK-1ルールで戦ったけど、正直とても動けているとは思えなかった。
「キャリアの晩年を汚さないでくれ」
「勝てなくなったら潔く引退してくれ」
そう思ったファンは少なくないと思う。
自分もそうだった。
KIDは実績も知名度もあるし、KIDが出れば客は来る。でも本当にそれでいいのだろうか?勝てない格闘家が大きな大会に出ていいのだろうか?空いた席に若手の有望なファイターが出た方がいいのではないだろうか?
しかしKIDにガンが発覚したのが2年前と言われという事実を顧みれば、本人が現役続行にこだわっていたというのは腑に落ちた。
諦めていなかったんだと思う。
胃がんについて
KID氏の死去後、ホリエモンのこのツイートが炎上した。
まさかの胃がん。。防げるガンなのに。。 https://t.co/kZO1lYRCz9
「神の子」山本KID徳郁さんを襲った胃がん 40代の罹患率は低いが高齢者ほど高まる理由は? (AERAdot. アエラドット 朝日新聞出版) – LINE NEWS #linenews https://t.co/eGnhozdMQ6
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2018年9月20日
自分もホリエモンの「胃がんの多くの原因はピロリ菌」という言葉を信じてピロリ菌検査をした一人だ。
スキルス胃がんについてはピロリと関係ないという意見も見たし、どれが正しいのか実際よくわからない。
ただ一つ言えるのは、「胃がんの多くの原因はピロリ菌」という事実で、もしKID氏がピロリ菌の検査をしないことで胃がんになってしまったとしたらとても残念だ。
ピロリ菌感染症 胃がんは感染症です!:一般社団法人 安佐医師会
また胃がんと関係があるわけではないが、「入れ墨があるとMRIが受けられない」という論争について。
「結論から言えば、“今はない話”だと思います。昭和の頃は入れ墨の顔料に“酸化鉄”などの金属材料が使われていたことがあり、MRIの電磁波で発熱してしまい火傷することがあった、とは聞いたことがあります。現代では彫師のほぼ全員が人体に影響のない“審査を通った顔料”を使っているので、レントゲン、MRIも受けられます。友人のレントゲン技師も『入れ墨のある患者さんのMRIの事故は記憶にないよ』なんて言ってました。ただし、入れ墨のある患者がMRIを受ける際に、『すべては自己責任』という誓約書は書かされますけどね(笑)」
胃癌の診断にMRI は無関係。
tattoo は装飾分野の文化です。
受け入れるのも拒否するのも自由です。
医師として不潔な方法や有害物質を使うことには同意できません。
日本の彫物技術が絶えるのは残念です。
僕が若ければ伝統文化を継承して医者もできる名匠彫り克を名乗っていただろうと思います https://t.co/mHv5QaP7We— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年9月20日
さいごに
発覚から2年。公表することなくガンと戦い続けるというのは、おそらくガン含め死の淵をさまよった人にしかわからない気持ちかもしれない。
週刊誌が出るので仕方なく公表したらしいが、それがなければおそらく公表しないままだっただろう。
そして弟がこんな状態なのに練習や試合を行っていた姉・美憂氏のメンタルも相当なモノだと思う。弟の死去にぶつかったばかりなのに、9月30日の試合は行うらしい。
KIDも美憂も諦めない天才だ。
心から応援したい。
そしてもう一人、気がかりな選手がいる。堀口恭司だ。
堀口は、7月に空手時代の恩師が亡くなったばかりで、前ジムの恩師KIDが亡くなったことも重なるとなると、メンタル面でのダメージはかなり大きいと思う。
「プロには関係ない」という意見もあるかもしれないが、格闘技はお互いギリギリまで体重を削って合わせて、9分ないし15分間、一瞬も気を抜くことなく全力で試合を行う。そんな一瞬で勝負を分ける可能性のあるギリギリの世界で、メンタル面が及ぼすダメージははかり知れない。
すごく安っぽい言葉になってしまうが、恩師KIDに捧げる最高の試合を見せてほしい。
最後に。
山本”KID”徳郁という格闘家は、自分の中で特別な選手という意識は本当になかった。好きな選手として挙げたこともないし、試合はほぼ全部見ていると思うけど、晩年の不甲斐なさに苛立ちすら感じていた。
しかし死去後、これだけ頭から離れないというのは、なにか潜在的に特別な選手だったのかもしれない。
失礼な言い方かもしれないけど、もし他の選手が亡くなっても、これだけ考えるかはかなり疑問だ。
自分の適正体重に階級がなくて、自分より大きい選手の中に飛び込んで勝利を重ねていたKIDに憧れていた人は多い。レスリングから総合格闘技に転向し、今度は慣れないK-1ルールで結果を出し、日本の格闘技全体を盛り上げていた。
今後、KIDのことを知らない世代の格闘家が出てきた時に、今のMMAにおいて60kg代の軽量級を切り開いたすごい格闘家がいたんだよというのが少しでも伝われば嬉しい。
倒されても立ち上がる。
諦めない天才。
でも若くして病に倒れてしまった。
無念だ。